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東京地方裁判所 平成9年(ワ)19318号 判決 1998年8月31日

原告 福山昭

被告 国 ほか一名

代理人 森悦子、近藤秀夫 ほか四名

被告ら補助参加人 田中恵

主文

一  被告株式会社富士銀行は、原告に対し、一五二一万四八一七円及びこれに対する平成九年九月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告国に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告株式会社富士銀行に生じた費用を被告株式会社富士銀行の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告国に生じた費用と参加によって生じた費用の三分の二を原告の負担とし、参加によって生じたその余の費用を補助参加人の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文一項同旨

二  被告国は、原告に対し、五九五万八六六六円及びこれに対する平成九年九月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  被告株式会社富士銀行(以下「被告富士銀行」という。)に対する請求について

1  原告は、次の通りの事実を請求原因として主張し、原告の相続分は三分の一であるとして後記預金債権の各三分の一についてその支払を求めているところ、右請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

(一) 福山初江は、平成八年三月二八日に死亡したが、原告はその長男である。

(二) 福山初江は、被告富士銀行(湘南台支店)に対し、次の通りの預金債権(以下「本件預金」という。)を有していた。

<1> 種類 定期預金

口座番号<略>

平成九年三月三一日時点の残高 四五六四万四〇八七円

<2> 種類 普通預金

口座番号<略>

平成九年三月三一日時点の残高 三六八円

2  被告富士銀行の主張

被告富士銀行は、原告以外の福山初江の相続人から、原告に対して本件預金を払い戻さないよう申出を受けているので、原告の請求に応じることはできない。

二  被告国に対する請求について

1  原告は、次の通りの事実を請求原因として主張し、原告の相続分は三分の一であるとして後記定額貯金債権の各三分の一についてその支払を求めているところ、請求原因(二)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、同(一)の事実を認めることができる。

(一) 福山初江は、平成八年三月二八日に死亡したが、原告はその長男である。

(二) 福山初江は、被告国(郵政省)に対し、次の通りの定額貯金債権(以下「本件貯金」という。)を有していた。

<1> 記号 <略>

番号 <略>

預入日 平成二年一二月二一日

平成九年三月三一日時点の残高 六九一万円

<2> 記号 <略>

番号 <略>

預入日 平成二年一二月二一日

平成九年三月三一日時点の残高 六九一万円

<3> 記号 <略>

番号 <略>

預入日 平成三年五月二三日

平成九年三月三一日時点の残高 四〇五万六〇〇〇円

2  被告国の主張

郵便貯金の性質は消費寄託であるが、郵便貯金契約の内容は、郵便貯金法(以下「法」という。)、郵便貯金法施行令(以下「施行令」という。)及び郵便貯金規則(以下「規則」という。)等の法令で定められており、郵便貯金を利用する者は、当然に右法令の適用を受けることとなる。

本件貯金は定額郵便貯金であるが、これは、一定の据置期間(預入の日から起算して六月(法七条二項、施行令一条二号前段))を定め、据置期間内は原則として払戻しをせず、かつ据置期間経過後も分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入する郵便貯金である(法七条一項三号、五二条一項)。

ところで、法は、郵便貯金を簡易で確実な貯蓄の手段としてあまねく公平に利用させることによって国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することを目的としている(法一条)が、この目的を達成するためには、全国二万四六〇〇余の郵便局において、多数の利用者を対象とする大量の事務を画一的に取り扱う必要があるところ、定額郵便貯金については、半年複利で利子計算がされ、預入してから払い戻すまでの期間に応じて段階的に利率を高くした貯金者に有利な貯金とした(規則四条、五条二項、五項、六項)反面として、前記のような権利の行使の面における制限を設けたのである。

そして、共同相続人が定額郵便貯金債権を共同相続した場合には、同債権は、相続分に応じて複数の相続人に分割して帰属することとなるが、相続によって右のような債権自体の内容・性質が変わるものではないから、預入の日から起算して一〇年が経過して通常貯金となる(法五七条一項)までは、預入した貯金額を分割して払い戻すことはできないのであって、相続人において単独で自己の相続分の払戻しを求めることはできないというべきである。

したがって、原告の請求は失当である。

3  被告国の主張に対する原告の反論

法七条一項三号が定額郵便貯金の分割払戻しを制限した趣旨は被告国が主張するとおりであるとしても、それは定額郵便貯金であることから当然に必要となるものではなく、最低預入金額が一〇〇〇円である(法七条二項、規則八三条の一一本文)ことからすれば、被告国が主張するような貯金管理の容易性は事実上ほとんど考慮されていないといえる。

分割払戻し制限の趣旨はこの程度のものであるから、この制限は、定額郵便貯金について相続が発生した場合に、払戻請求権が各相続分に応じて当然に分割されるという原則には何ら変わりがないというべきである。

そうしないと、貯金者は、定額郵便貯金を解約して通常郵便貯金へ移行させれば単独で一部の払戻しを受けることができたにもかかわらず、相続開始後は各相続人が分割して取得した払戻請求権を共同行使しない限り、単独では権利行使ができないことになり、他の相続人が協力しないと最大一〇年近くも権利行使が制限されてしまうことになる。

前記のような法七条一項三号の趣旨に照らせば、このような結果は、相続という意図せざる事情から定額郵便貯金の権利者となり、右権利関係を清算する必要に迫られた相続人に対して過大な制約を課すものであって相当ではない。

また、規則三三条は、定額郵便貯金にも適用されると解されるから、定額郵便貯金においても、据置期間経過後は、他の相続人の同意があれば一人の相続人が名義書換手続を行って、自己の相続分について払戻しを受けることが予定されているということができるのであって、法は、定額郵便貯金について分割払戻しを制限する一方で、規則三三条所定の要件を具備すれば一人の相続人が相続分に応じて分割払戻しをすることを認めているのである。

以上によれば、分割払戻しを制限した規定をもって、相続開始によって被相続人や相続人の意思と関係なく不可避的に生ずる権利関係の清算を妨げることができるとする合理的な理由は認められず、本件のように相続によって法律上債権が当然に分割される場合にまで右制限が及ぶものではないというべきである。

第三判断

一  被告富士銀行に対する請求について

請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

そして、遺産中の可分債権は、各共同相続人の相続分に応じて法律上当然に分割され、各共同相続人は、その相続分に応じて権利を取得すると解されるところ、預金債権であっても右の理に何ら変更を生ずるものではないから、被告富士銀行の前記の通りの主張は理由がない。

以上によれば、原告の被告富士銀行に対する請求は理由がある。

二  被告国に対する請求について

前記請求原因(二)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、同(一)の事実を認めることができる。

しかしながら、法七条一項三号は、定額郵便貯金について、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」と規定しているところ、これは、定額郵便貯金債権の行使に関して制限を付したものと解するのが相当である。

定額郵便貯金は、半年複利で利子計算をする(規則五条五項、六項)など貯金者に有利な貯金として設定されているところ、法は、そのような取扱いをする反面として右のような権利行使の面における制限を付したと解されるのであるが、法が、「郵便貯金を簡易で確実な貯蓄の手段としてあまねく公平に利用させることによって、国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進することを目的と」しており(一条)、この目的を達成するためには、全国に多数存在する郵便局において、多数の利用者を対象とした大量の事務が迅速に、かつ画一的に取り扱われる必要があることを考慮すれば、法が右のような制限を付したことには十分な合理性があるということができる。

したがって、定額郵便貯金の最低預入金額が一〇〇〇円である(法七条二項、規則八三条の一一本文)としても、貯金管理の容易性が事実上ほとんど考慮されていないということはできない。

そうすると、相続によって債権自体の内容や性質が変わるという理由はないから、原告としても、右のような制約を付された本件貯金を相続したにすぎないというべきである。

したがって、定額郵便貯金においては、預入の日から起算して一〇年が経過して通常貯金となる(法五七条一項)までは、預入した貯金額を分割して払い戻すことはできないのであって、本件においては、未だ本件貯金が預入されてから一〇年が経過していないことは明らかであるから、本件貯金の分割払戻しを求める原告の請求は理由がない。

なお、原告は、右のように解すると、各相続人が分割して取得した払戻請求権を共同行使しない限り権利行使ができないこととなり、他の相続人が協力しないと最大一〇年近くも権利行使が制限されてしまうことになって相当ではないと主張するが、相続人らは、もともとそのような制限を付された権利を相続したにすぎないのであるからやむを得ないというべきであるし、このようなことを理由に分割払戻しを認めてしまえば、かえって前記の通りの法の趣旨を没却することになると解される。

また、原告は、規則三三条を指摘して前記の通り主張しているが、同条は単に法の定めを前提とした手続を規定しているにすぎないと解されるから、この点に関する原告の主張も理由がない。

(裁判官 土田昭彦)

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